【天上と地上をつなぐ天の橋立】
「天皇」という名前に込められた意味を考えるとき、大きなヒントがひとつ『旧約聖書』のなかにある。
イスラエル12支族の祖となったヤコブが旅をしているときのことである。日も暮れたので、そばにあった石を枕に、横になることにした。
「すると、彼は夢を見た。先端が天まで達する階段が地に向かって伸びており、しかも神の御使いたちがそれを上ったり下ったりしていた」(『創世記』第28章12節)
なんとも不思議な夢である。地上と天をつなぐ階段が延びており、そこを天使たちが登ったり、降りたりしているという。
〜 (中略) 〜
ここに登場する天使の階段は、一般に「ヤコブの階段」と呼ばれる。『聖書』によっては、この階段を梯子と翻訳することもあり、「ヤコブの梯子」とも呼ぶ場合もある。
それは文字どおり、天と地を結ぶ階段。登り詰めると、そこは絶対神の国。御父と御子と聖霊が住まう神殿がある。天使たちは、絶対神と人間の間を取り持つために、ヤコブの階段を上下しているというわけだ。
興味深いことに、天上と地上というふたつの世界観は、そのまま神道の世界観である。西方浄土というように、水平方向の世界観である仏教とは、非常に対照的である。
〜 (中略) 〜
【天皇陛下】
〜 (中略) 〜
では、どうして「陛下」なのだろう。
百科事典を開けば、そこには天皇の敬称とある。直接的に「天皇」と呼ぶことをはばかるときに使う名称だという。
文字の意味として、「陛下」の「陛」とは宮殿に続く階段のこと。よって、「陛下」とは、階段の下にいる者という意味になる。
しかし、これは変である。天皇は宮殿のなかにいるもの。階段の下の者ではないはず。「陛上」ならわかるが、「陛下」とは納得しがたい。
これに対し、有識者はいう。天皇に対しては、近臣の取次ぎを経て、上聞に達する。この情景を比喩に使うことで、権威を表現した。それが「陛下」であり、「天皇陛下」という敬称である、と。
なるほどと納得してしまうが、はたしてそうなのか。こうした天皇のかかわる言葉は、みな神道用語である。神道によって説明されるべきものである。
神道における「陛」、すなわち階段とは何か―――。
そう、ほかでもない。先にみた葦原中国をつなぐ梯子、「天の浮橋」であり、「天の橋立」である。
よって、「陛下」とは、「天の浮橋の下にいる者」の意味だ。
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