上代特殊仮名遣いとは、『古事記』・『日本書紀』・『万葉集』など、上代(奈良時代頃)の万葉仮名文献に用いられた表音的仮名遣いであり、単に「上代仮名」とも呼ばれることもあります。
この、上代特殊仮名遣いと現代の日本語との違いは、母音の数です。
現在、私達は、a・i・u・e・oの5つの母音しか用いていませんが、上代は、この5つの母音の他に3つ、つまり、全部で8つの母音があったと考えられています。その3つとは以下の通りです。
・・・wiという音に近いもの
・・・aiのaの音が子音化したもの
・・・ioで、yo(ヨ)とwo(ヲ)の中間音 |
当時の人々はこれら8つの音を普通に言い分け、聞き分けており、平仮名や片仮名が用いられるようになる前は、万葉仮名(漢字)で書き分けられていました。
例えば、タ段の「ト」も、「ト(戸)、ト(外)、トフ(問ふ)」などでは、「刀」「斗」「都」などが用いられ、決して、「止」「等」「登」などの字は使われません。
一方、「トリ(鳥)、ヒト(人)、トシ(年)」などでは、逆に、「止」「等」「登」などの字が用いられて、「刀」「斗」「都」は使用されませんでした。
この例で示したような、用いられた漢字の別で示される音の違いは、現在、上代特殊仮名遣いの甲類、乙類と名付けて区別されています。
甲類 ・・・ a・i・u・e・oの母音が使用されているもの
乙類 ・・・・・の母音が使用されているもの |
また、甲類・乙類の区別があるのは、五十音全てについてではなく、以下の13のみです。
き・ひ・み・け・へ・め・こ・そ・と・の・も・よ・ろ
(注)上記の濁音(ぎ・び・げ・ベ・ご・ぞ・ど)についても区別あり。
また、「も」の区別があるのは『古事記』のみ。 |
例えば、上述の「ト(戸)、ト(外)、トフ(問ふ)」は甲類の「ト」、そして、「トリ(鳥)、ヒト(人)、トシ(年)」は乙類の「ト」になります。
また、通俗書で、『肥国は「火の国」であり、「日の国」でもあったのだ』というような、甲類・乙類を意識していない主張を見かけることがありますが、「肥(ひ)」と「火(ひ)」は乙類、「日(ひ)」は甲類で、別の言葉です。
よって、肥国が「火の国」というのはありえても、「日の国」というのはありえないのです。
なお、どの漢字が甲類に当たり、また、乙類に当たるかは、Wikipedia「万葉仮名」やに一覧表がありますので参考になります。
(注)
|