法隆寺と『ヨハネの黙示録』(その2)

 ※当記事は、「法隆寺と『ヨハネの黙示録』(その1)」からの続きです。




 結論から述べれば、法隆寺の真の本尊、それは夢殿の救世観音(くせかんのん・ぐせかんのん)です。

 救世観音は飛鳥時代の木造の像で、長らく秘仏とされてきましたが、1884年に岡倉天心とアーネスト・フェノロサが法隆寺を訪れ、寺僧と口論の末に開帳し、この像は人々の目の触れるところとなりました。

 その時の様子をフェノロサは次のように述懐しています。
『東亜美術史綱』
 この秀美なる仏像は等身よりは少しく大にして、実に明治十七年の夏、余が一名の日本同僚と(とも)に発見したる所に係る。余は日本中央政府より下付せられたる公文に依り、法隆寺の各倉庫各厨子の開検を要求する権能を有したり。八角形の夢殿の中央に閉鎖したる大厨子ありて、柱の如く天に(ちゅう)したり。法隆寺の僧は伝説を語て(いはく)、此の内には推古天皇の時、朝鮮より輸入したるものあり、然れども、二百年前より(かつ)て一度も是を開扉(かいひ)したることなしと。此の如き稀世(きせい)の宝物を見るに熱心なる余は、有らゆる議論を用ひて開扉を強ひたり。寺僧は、()し之を開扉せば(たちま)ち神罰あり、地震は全寺を毀つべしとて長く抗論したり。然れども我らの議論は遂に勝ち、二百年間用ひざりし鍵が錆たる鎖鑰(さやく)内に鳴りたるときの余の快感は今に(おい)て忘れ難し。厨子の内には木綿を以て鄭重(ていちょう)に巻きたる高き物顕はれ、其の上に幾世の塵埃(じんあい)堆積したり。木綿を取り除くこと容易に非ず、飛散する塵埃(じんあい)に窒息する危険を冒しつつ、凡そ五百"ヤード”の木綿を取り除きたりと思ふとき、最終の包皮落下し、此の驚嘆すべき無二の彫像は忽ち吾人の眼前に現はれたり。
※『隠された十字架 法隆寺編』(梅原猛・新潮文庫)より
※青字にしたのは管理人
 開帳を要求すると、寺僧は、「()し之を開扉せば(たちま)ち神罰あり、地震は全寺を毀つべし」と拒否。
 口論の末、やっとのことで開帳した時には、かなりの塵が積もった状態で、また、500ヤード(約457m)もの木綿でぐるぐる巻きにされた状態だったようです。

 この救世観音は、天平五年(761年)の『法隆寺東院資材帳』に、「上宮王(じょうぐうおう)等身(とうしん)観世音菩薩木造一■、金箔押」(※■=身+區)とあり、聖徳太子と同じ身長であると伝えらていたようです。もし、これが本当なら、救世観音は約180cmなので、聖徳太子は当時にしてはかなり背が高かったようです。


 さて、この仏像は、「救世観音」という名前からして、救世主を連想する名前なのですが、次のような姿をしています。
 仏像らしからぬ御顔で、実在の人物(おそらくは、聖徳太子)を模して作ったのではないかと思われます。

 そして、この仏像の光背に注目してみましょう。
 上部中央には、三つの相輪(そうりん)(※五重塔などの屋根から天に向かって突き出た金属製の部分の総称)がある宝塔が刻まれています。これはキリスト教の三位一体を表わしていると思われます。

 そして、光背の外縁部は火炎紋で、その内側は唐草模様です。

 まず、火炎の方は、『ヨハネの黙示録』に予言された、この世の終末に、獣や偽預言者、及び、その信従者たちを焼くという炎を表わしています。
『ヨハネの黙示録』(14章9-11節)
 もう一人別の第三の天使が先の二人に続いて大声で言った、「誰でも、獣と獣の像を礼拝し、その額か手に獣の刻印を受けているならば、その者は、神の怒りの杯に水を混ぜて薄められないままに注がれた、神の怒りの葡萄酒を飲むことになり、また、聖なる天使たちと小羊との前で、硫黄の燃え盛る炎に苦しめられることになる。彼らを苦しめる煙は世々永遠に立ち昇り、獣と獣の像とを礼拝する者たち、それに誰でも、その名前の刻印を受けているなら、その者たちは、昼も夜も、安らぎを持つことはない。
『ヨハネの黙示録』(19章19-20節)
 私はまた、かの獣と地上の王たちとその軍勢とが、馬に乗った騎士とその軍勢とに戦いを挑むために、結集しているのを見た。
 しかし、
は捕らえられた。また、この獣の面前でもろもろの(しるし)を行って、獣の刻印を受けた者たちや獣の像を礼拝する者たちを惑わしたかの偽預言者も、獣と一緒に捕らえられた。これら両者は、生きながらに、硫黄の燃えている火の池に投げ込まれた
※他にも同様に記載あり。
 そして、次に、唐草の方ですが、これは、永遠の命をもたらす「生命の樹」を象徴しています。

 この「生命の樹」は、救世観音の宝冠の方が分かり易いので、そちらを見てみましょう。
 こちらも、光背と同じような植物が描かれ、さらに、球状のものが付いています。この球状のものが「生命の樹の実」を表わしています。

 ちなみに、「生命の樹」については、『ヨハネの黙示録』では次のように記載されています。
『ヨハネの黙示録』 2章7節
 耳のある者は、御霊が諸教会に言われることを聞きなさい。勝利を得る者に、わたしは神のパラダイスにある、生命の樹の実を食べさせよう。
『ヨハネの黙示録』 22章2節
 その川は、都の大通りの中央を流れており、川の両岸には一年に一二回、実を結ぶ生命の樹が生えていて、毎月1つの実を実らせ、またその木の葉は諸民族の治療薬に用いられる。
※これは、天から降ってきた、神の都の様子を描写したものの一部
 『ヨハネの黙示録』に描かれた再臨のキリストは、大きく分けて二つの顔を持っています。

 神の教えを守り抜き、実を成らせることを出来た人達を祝福し、様々な幸福や永遠の命を与える「福の神」としての顔と、獣や獣を信じ、実を成らせることが出来なかった人達を罰し、永遠の炎へと投げ込む「懲罰の神」としての顔です。

 この救世観音の光背と宝冠は、その両方の姿を表わしていると言えるでしょう。


 次に、この救世観音が両手に持っているものを見てみましょう。
 これは、一般に宝珠(※仏教において様々な霊験を表すとされる宝の珠のこと)であるとされます。

 しかし、私の解釈を述べれば、これは宝珠ではなく、香炉です。

 『ヨハネの黙示録』において香炉は、次のように、神の裁きの開始を告げる合図として使用されます。
『ヨハネの黙示録』 8章3-5節
 そして、もう一人の別の天使が現れて、金の香炉を携えて祭壇のそばに立つと、その天使にたくさんの香が手渡された。それは、全ての聖徒たちの祈りに添えて、玉座の前に置かれた金製の祭壇の上に供えられるためである。
 そして、香の煙が、聖徒たちの祈りと一緒に、天使の手から神の御前にのぼった。
 それから、
天使はその香炉を手に取って、それを祭壇の火で満たしてから、地面に投げつけた。すると、落雷の轟きと稲妻、それに地震が起こった。
 天使が祭壇の火で香炉を満たし、それを地面に投げつけると、雷と地震が発生しています。

 この後、『ヨハネの黙示録』では、七つのラッパが順に吹き鳴らされ、また、七つの平鉢が地上に投げつけられて、陸地の三分の一が燃えつくされたり、海の三分の一が血になったりと、様々な災いが地上に降りかかることになります。

 救世観音が持つものは、この神の裁き開始を告げる香炉を表わし、この香炉には、様々な災いが詰まっているのです。

 また、救世観音は秘仏とされ、前述のように、夢殿の扉を開けば、全ての寺を破壊するような地震が起きると伝承されていたようです。

 そして、キリストが再臨する時、それは、地上に大きな災厄が発生する時でもあります。

 法隆寺の救世観音に関するこの伝承は、救世観音を「再臨のキリスト」と捉え、そして、救世観音が現れる時、つまり、キリストが再臨する時に起きることとして伝承されてきたと考えれば、辻褄が合います。

 救世観音がこの世に現れれば、災いの詰まった香炉が天使に与えられ、天使がその香炉を地上に投げつけることを合図に、神の裁きが開始されて様々な災厄が起きるのです。


 以上、救世観音は、『ヨハネの黙示録』に描かれた「再臨のキリスト」として制作され、そして、再臨するまでは、隠れた(特に、日本では隠された)神として、夢殿に封印されて秘仏とされたのでしょう。

 さらに、救世観音が安置される夢殿の位置も見てみましょう。
 夢殿のある東院は、金堂のある西院の真東に配置されていることが分かります。

 金堂については、記事「法隆寺と『ヨハネの黙示録』(その1)」で、仏像等が7−4−12の配置になっていると指摘し、また、真の本尊はそこには無いと記述しました。

 そして、金堂の真の本尊は、夢殿にある救世観音であり、それは、東の位置に配置されています。

 これも、『ヨハネの黙示録』に、その根拠を求めることができます。
『ヨハネの黙示録』 16章12節
 第六の天使が平鉢を大ユーフラテス河に注いだ。すると、河の水は干上がった。それは、太陽の出る方角から来る王たちのために道が準備される為であった
 この「太陽の出る方角(=東)から来る王たち」を「救世主たち」だと捉え、金堂の東に夢殿を配置したのでしょう。(※ちなみに、私自身は、この王たちは、三つの穢れた霊が招集する王たちだと解釈しており、救世主たちではないと考えている。参考:『「ヨハネの黙示録」 開封』)

 「再臨のキリスト」は、まだ、この世に現れていないので隠されていた。そして、現れる時は、太陽の出る方角からやってくるので、東に隠されていたのです。

 ちなみに、夢殿のある西院は、聖徳太子が住居とし、そして、亡くなった斑鳩宮の跡地に建設されています。おそらく、上述のような仕組みを作った人々は、聖徳太子にイエス・キリストの姿を投影していたのでしょう。



 ※(その3)へ続く。


◆参考文献等
書 名 等 著 者 出 版 社
『隠された十字架 法隆寺編』
梅原猛 新潮文庫





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