あるとき、天皇が遊びに出かけて三輪川に着いた時、川のほとりで衣服を洗っている少女がいた。その容姿はたいそう美しかった。
少女の名は引田部の赤猪子と言い、天皇は「お前は他の男に嫁がないでいなさい。今に宮に召し上げよう」と言って朝倉宮に帰った。
そして、赤猪子は天皇のお召しの言葉を待って、とうとう八十年がたった。
赤猪子は長い年月の間に体つきも痩せしぼみ、もはや召される望みがないことは分かっていたが、せめて、それまで待っていた気持ちを天皇に伝えようと思い、たくさんの品を持たせて参内して献上した。
ところが天皇はすっかり忘れていて、「お前はどこの婆さんだ」とたずね、赤猪子は事情を説明した。
天皇はたいそう驚き、結婚してあげようと思ったが、相手が非常に年老いていて無理だと悲しみ、歌を送り、赤猪子も返歌した。
そして、天皇は赤猪子にたくさんの品物を与えて帰した。 |